見上げれば雲か
「見上げれば雲か」 天野滋著
発行所：八曜社
初 版：昭和55年4月30日
私が持ってるのは、初版のものです(^_^)。
【目次】
はじめに
＜第一章＞
８ビート
睦月の詩
猫の生き方１
猫の生き方２
犬の梶丸
目覚まし時計に起こされて
小判鮫
夜鳴きソバ屋が通る道
ふと訪ねた昔の街
公園通りの眺め
苦労話について
三人のバランスシート
＜第二章＞
少女の瞳はどこへ行った
少年はヒーローをめざす
こたつで囲んで
ただの友だち
いつでも黄昏
八月の砂漠
煙草のけむり
折れたやさしさ
都会に降る雪
センチメンタル・ジャーニー
夢と死
水泳
いわし雲
僕の歌
彩雲
ノート
心の欠片１
心の欠片２
心の欠片３
＜第三章＞
モーニング
嫌いなもの順序
病院の門１
病院の門２
赤い血、青い血
東横線
恐怖のタクシー
僕のラジオ
ヘラブナ釣り
長湯はほどほどに・・・
テレビカメラの普及について
自動販売機の前で
政治家のこと古本屋の悲劇
ファンレター
とりとめのない音楽のはなし
あの時のあの歌は
あとがき
【はじめに】から・・・
担任の先生が、
「きみたちの将来の夢はなんだ」
とよく皆に問いかけた。
これは幾度となく繰り返された問いであったし、あまりにも漠然としていたがゆえ、このうような問いは普段、右から左へ素通りしてしまうばかりであったが、好きな先生の祐子とならいちいち納得できるもので、僕は背をまっすぐに伸ばして次の言葉を待っていた。
「先生の夢は教育に関する本を一冊出すことだ」
今でもその時の先生のきりっとした、精悍な態度が思い出される。そんな先生にとって一生の夢とうたわれた「本」とういうものを、僕は、まわりの連中に言わせると「簡単に」出版させてもらえたわけである。
これは僕の今の職業にして初めて成せる業であろう。と、その辺を十分に踏まえて書き始めてみたものの、本を出版できるまでに二年という長い期間がかかった
そのときその時によって、どれが実際の自分なのかははっきりしないのは、言うまでもなく、書いたときの気持ちと、時間をおいて読み返したときの精神状態がかみあわない部分があるからで、せっかく黒くうずめた原稿用紙も、そのいくつかは破り棄ててしまった。
この本に納めた原稿は、運良く破られずに済んだものである。
【あとがき】から・・・
あの時、ちょうど退屈していたことだし、窓の外を眺めながら、ぼんやり同じカセット・テープの同じサイドを繰り返し聞いていたものだ。寒い列車の中で我慢に我慢を重ね、普段のようにグリーン車の端の席にみんなとかたまって座っているのと違って、普通車の直角椅子に長時間へばりついているのは重労働に思えた。
しかし、海に面した風景が、空といい、風といい、雲といい、また波といい、たいしたものであったから、ふっと心の中にすき間があったのかもしれなかった。視線がぶつかり合っただけでわかりあえる、そんなことって誰にでもあるはずなんだ。
それが彼女の「笑顔」だった。お互いに名前も知らない。およそ五秒間の付き合い。そんな言い方がぴったりの場面。そしてお別れするんだ。
声をかければよかった、なんて悔やんだ少年の頃から何年もたった僕らの年代は昭和二十八年うまれで、まるで悲劇的でもないが、意外とオクテで、トンデル世代とほど遠い。
ましてその上、北国育ちというのはかなりナイーブにできているはず。どうしても雪の中からじゃあ、じめじめした文化しか生まれそうにないんだ。・・・
※天野さんの素敵なエッセイ集です。
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